翼宿は誰もいない大きな部屋の真ん中で柳宿にもたされたほうきをもって1人考える。
ここ最近柳宿、鬼宿、美朱の様子がおかしい。
昨日も昨日で、今日の当番制の家事も柳宿にほぼ強制的に変わらされた。
やけにご機嫌でおしゃれをいつもより念入りにした美朱と柳宿、いつもとさして変わらないが動きやすそうな格好で鬼宿の3人は少し前にお城へ行くと家を出たばかりだ。
美朱と柳宿2人がおしゃれをして楽しそうに話しをしながら出て行くのならばいつものことで、どうせ鬼宿を荷物もちに買い物にいくというのだろう。と思う。
むしろ両手を振って家から出す。
荷物もちに自分が選ばれなかったことを安堵しながら。
もし、美朱と柳宿の買い物なら鬼宿が機嫌よく、しかも意気込んで出かけるわけがない。
何十分も数種類の服を持ち「どっちがいいかなぁ」などと呑気に言い、決めたと思ったら今度は「やっぱりさっきのもよかったな」と言いながら元来た道を戻る。
あの辛さは自分と同じように鬼宿もよく分かっているはずだ。思い出すだけでも鳥肌が立つ。
ふと、そこで自分の思考の中に少し気になる単語があったことに気づく
「……意気込む?」
何故鬼宿が意気込む必要があったのだろうか?
男が意気込むこと。
いつもなら途中で考えることを放棄する翼宿だが今日は気になってしょうがない。
うんうんと考える翼宿があることをひらめく。
「はっ! まさか……あいつ」
3人の出しなの言葉。
……腕がなるぜっ!
……鬼宿、今日のこと楽しみにしてたもんねっ 頑張ってねっ!!
……頑張るのはいいけど、やりすぎちゃだめよ!あんたすぐ見境なくすんだから。
まさか、あいつ俺に内緒で!
「強いやつがメッチャ集まるイベントやっちゅーことだまっとったな!」
そんなイベントがあるなら、1戦2戦強いやつと交えることも出来るかもしれない。
「こんなことしょうる暇ないわっ!」
言うや否や柳宿手作り花柄エプロン(美朱にかわいいvvと言われ鬼宿に笑われた)を投げ捨て走り出す。
ここで、エプロンを置いて家を出る辺り怒り心頭な翼宿にも少しは冷静さを持っていたのか、はたまた偶然か。
なんにせよ、家事を途中で投げ出したことは柳宿の怒りは確実である。
ドサァァっ!!
家を出て数分たった頃、突然翼宿の頭上に衝撃が走りその重みでつぶされる。
「張宿、大丈夫なのだ?」
「はい。それより井宿さん、ここは?」
呑気に頭上で交わされる会話。
「おのれら、人の上でなにしょんじゃあぁぁ!!」
思いっきり立ち上がり、上に乗っていた2人は転げ落ちる。
怒りに満ちた目で2人を見る。
どうやら子供が2人。いや、片方は子供だろうか。サイズは子供なのだが何かが違うような気がする。
「ひっ、怖い顔」
2人のうちの子供らしいほうが翼宿の顔を見るや泣きそうに瞳を潤ませる。
「誰が「怖い顔」やっ!!」
「まぁまぁ落ち着くのだ」
子供?と思ったほうが翼宿を軽くなだめ、子供らしいほうに言葉をかける。
「張宿、大丈夫なのだ。このキバのお兄さんは少し人より人相が悪いだけなのだ、決して悪い人ではないのだ」
そこの言葉を聞き張宿と呼ばれた子供はおそるおそる翼宿を見る。
それはいい。問題はそこではない。
「フォローになってへんやんかっ!! なんで初対面のヤツに「キバ」やら「人相が悪い」や言われなあかんのやっ!!!」
「オイラ「悪い人ではない」とも言ったはずなのだが?」
「そんなん知るかっ!!」
そんな漫才のような言い合いを横でどうしていいのか分からず見ていた張宿がクスリと笑う。
「なんやっ!」
「すみません。つい」
どうやら、張宿の中で「怖い人」という印象がなくなったのだろう。
「そんなことよりも、ここはどこなのだ?」
散々人の悪口を言いながら「そんなこと」というのも気になったが相手が困っているようなので怒りを押し込める。
「お前どこ行きたいんや? つーか、お前らどうやって現れたんや!」
子供?と思っていたほうが突然大人サイズに変わったことも面食らったがそれよりも現れたほうが驚いた。
「井宿さんは、魔法使いのお弟子さんなんです」
「へぇ〜」
軽く相槌をうつのは、信用できないから。
まず魔法使いという存在を信じていない。
それに魔法使いにはとても見えない。どうみても、井宿は貴族まではいかないまでもそれなりに裕福な家庭の人間が着るような服装だ。
「オイラと張宿は同じ塾仲間で、同じ塾仲間が今城にいるのだが忘れ物を届けにいく途中なのだ」
「〜〜お前、こんなガキと同じこと勉強しよんか!?」
明らかにバカ扱いされていることに井宿は反論する。
「少なくとも、君よりは勉強できると思うのだ」
その証拠に、と懐から取り出した1冊の本を取り出し翼宿に見せる。
「うっ……これは」
そこからは翼宿には読めないような文字がびっしりと並んでいる。
まるで本から「バカには読めない」とでもいうような魔法でもでているかのように翼宿はへなへなとその場に身を崩す。
それはただ単に翼宿の勉強嫌いのためか、それとも魔法使いの弟子という井宿の力なのか。
地面へ突っ伏している翼宿は無視して2人は地図を取り出し現在地と目的地を見比べる。
「恐らくこっちの方向でしょうね」
「そうなのだ、では行くのだ」
どこからともなく杖のようなものを取り出すと、覗き込むように翼宿を見ながら杖の先でつんつんと翼宿を小突いてみる。
「君はどうするのだ?」
「行くに決まっとるやろ!」
「そうなのだ?」
「では急ぎましょう。遅くなってしまいます」
前編はまだともかく、後編はオリジナルばかりの予定です。
もう少し続くと思いますが、お付き合いください。
2006.05.19
中編へ