猫のようなキミと 2話








 
猫のようなキミと 2話












「アカン・・・・」

 あの時は華月が何を言っているのか分らなかった。

 まさかこんな自体になろうとは。

 山賊の頭ともあろうものが・・・こんな失態部下たちに見せられたものではない。

 久しぶりの市だがこの状況から脱出するのが先決。

 自分のやるべきことは1つしかない。










「あのクソガキ、どこに行きおったんやっ!!!!!!!!」







 華月と別れた後、まるで肉まんで力を取り戻したかのように走り出した莉鈴。

 それまでと同じように翼宿をからかうかのように走り回る。

 しかもあれほどまでに華月や雄准が避けていたという理由は勝手に走り回ることだけではなかった。

「いつかの星見祭り思い出すわ。美朱とおんなじや、あいつっ!!」

 飲食市。

 どれだけ食い意地が張っているのか、肉まんを食べたばかりだというのに。

 一件一件立ち止まり欲しそうに眺め、そして「いる、いる」だの「あべる、あべる」と何度も言う。

 そして捨てられた子犬のような目に負けた店員たちに試食用の饅頭や惣菜やらいくつも貰って食べていた。

「分ってしとるだけ美朱のほうがマシやわ」

 朱雀の巫女サマの幼い頃の食い意地も、こんな感じだったのではないかとちらりと思う。

 莉鈴とはぐれてからそろそろ15分になる。

 子供だからそう遠くには行っていないだろうとたかをくくっていたが、

これだけ探していないとなるとそれなりに遠くにいるのかもしれない。

「手間のかかるやっちゃな・・・」

 舌打ちしながらも、半ばはめられたとはいえ受けたからにはやらなければいけないと思うから。

 そしてなによりも、

自分の歳の半分どころか10分の1程度しか生きていない小さな小さな子供に撒かれてしまったとは男がすたる。

 一息つきもう1度来た道を戻ってみる。

 大人たちにまぎれている数少ない小さな人影を見つけるたび立ち止まる。

 莉鈴の今まで立ち寄っていた店頭に食べ物がある店を重点にチェックする。

 しかし朝の人の多い時間帯。

 小さな迷い人などそうそう見つかるわけもない。

 大きな声で泣いてくれれば見つけようもあるものの。

 手頃な岩に軽く腰掛け、大きく息を吐く。

「あのガキ、どこに行きおったんや・・・だいたいこの人ごみであんなちびっこいヤツ1人で見つけるほうが無理や!!」

 しかしどうする。

 見つからないまま雄准の家に戻るわけにも行かない、

かといって至t山の山賊たちと探すわけにもいかない、実家に戻り事情を話すなんてとんでもない。

 攻児や母親、姉たちにバレてからかわれている自分を想像しブルリ震える。

「昨日、連続不審火があったんやて」

「・・・・・・」

「聞いた聞いた!怖いなぁ犯人まだ捕まってへんのやて」

「捕まるまで子供1人で外にあんまり出さんほうがええかもなぁ」

「ホンマや、危ないけんなぁ。なるべく大人と一緒のほうがええで」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 通りすがりのおばちゃんの会話にタラリと嫌な汗が流れる。

「お!そういや井宿今どこおるんや!?」

 井宿に事情を説明すれば小言の1つや2つは当然ついてくるだろう。

それでも至t山や実家の連中に話すよりは随分とマシだ。

 それにもしかしたら井宿の術で探せるかもしれない。

 そう思うや否な、目を閉じ仲間へ念が通じるよう集中する。



−−−井宿 今すぐこっち来てくれへんか!?



 ドシャアァ

 突然降りかかった体の重みに潰される。

 原因は当然分っている。

「井宿ぃぃぃいいいい!!!おんどれ、一体何回人を踏み台にしたら気ぃすむんやっ!!!」

 勢いよく立ち上がると3頭身の井宿はコロンと地面に転がる。

「だー。翼宿こそ突然どうしたのだ?」

 もう一言二言文句を言ってやろうかと思ったが、本題を振られ口ごもる。







「まったく、人様から預ったのならしっかりと見ないとダメなのだ」

「しゃあないやないか、ちょっと目ぇ話した隙に人ごみン中走って行ってしもたんやから」

「相手は子供、どう考えても翼宿の注意力が足りなかったのだ!」

 自覚がないわけでもないが、井宿とはいえ他の人間に言われると腹が立つ。

「お前の術で探せるか!?」

 しかしそこは鋼鉄の忍耐でぐっと堪えたずねる。

「うーん。難しいのだ。

見たことも会ったこともない子だからどんな子か分らないのだ。一応気を探ってみるがうまくいくかは分らないのだ」

「探せるんか!?」

「大人の気に比べて子供の気は小さいのだ。翼宿の言うように元気のいい子なのならよく動く小さな気を探してみるのだ」

 そういうと井宿は印を組んだ。

 それに習って翼宿も気を探ってみる。

 しばらくして井宿が印をといた。

「子供らしい気はこの南にいくつかあるのだ」

「そこはガキどもが集まる広場や」

「それとこの近くに1つ」

「この近くやて!?」

 こっちなのだと井宿が指をさす。

 すると2,30メートルほど先でどこぞで拝借してきたのだろう、魚を食べているたまの前で子供がちょこんと座っている。

「・・・・・・・もぐもぐもぐ・・・・・おいしー?」

「あーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 ドカドカと機嫌悪いのを隠しもせず子供=莉鈴のほうへ歩く。

「さかなー・・・・・・・ねこおぉぉ!!」

「お前、どこいっとったんやっ!!!」

 今にも掴みかかる勢いの翼宿を井宿が止める。

「・・・おったぁ」

「おったやないわっ!!!」

 口の周りに食べかすをべっとりつけた莉鈴はのんびりと翼宿を指差す。

「どれだけ探した思とんやっ!勝手に走るなやっ!!!」

 翼宿の文句もどこへやら、莉鈴は初めて見る人物に目をやる。

「キミが莉鈴ちゃんなのだ?オイラは井宿というのだ」

 聞いているのかいないのか莉鈴はじっと井宿を見る。

 莉鈴の目線にしゃがみこんでいる井宿はまっすぐに見つめる莉鈴に少々居心地が悪いらしく困ったように笑う。

「・・・いっしょ」

 しばらく見つめて井宿と猫のたまを見比べ言葉を出す。

「いっしょや、いっしょ」

 大人2人は何が一緒なのかと顔を見合す。

「何が一緒なのだ?」

 しばし考えた翼宿は合点がいったとばかりに笑いだす。

「お前の顔とたまの顔が一緒やいうとんのやろ・・・クククッ」

 今度は井宿とたまが顔を見合わせる番だった。

「そんなに似ているのだ?」

「いっしょ、いっしょー」

「お前ら、やっぱ生き別れの兄弟ちゃうか!?」

 クツクツと笑う翼宿にそこまで笑わなくてもと思う。

 でも、とりあえず。

「無事見つかってよかったのだ」









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やられたことがあります。

勝手に走り回り見失った怪獣を本気で心配しかけた頃に見つけた時の一言。


「おった」

こっちがさがしとったんやっ!!!


まぁ、本人も1人行動したはいいが私が付いてきてなかったことに気づき少し焦ってたんでしょうが、

勝手に1人走り回るなよ・・・・(怒)

2007.08.30