猫のようなキミと 1話








 
猫のようなキミと 1話









「ほな、頼むで」

 男は目の前に見慣れぬモノを置いて自分の前から去っていった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 寝起きで働かぬ頭をフルに活用し、今ある現状を受け止めようとする。

 大きいとはいえない部屋をバタバタと駆けてきたモノ=人物は翼宿を珍しそうに眺めている。

 年のころは2歳。くりんとした目が特徴の女の子。

 何故そんな子が自分の元へやってきたのか。




 確か4日前、3ヶ月ぶりに実家へ帰ると母親と姉に捕まった。

 これ好機とばかりに雑用を次々と言いつけられ開放されたのは3日後の夕方だった。

 もう一晩泊まるというのも考えないわけでもなかったが、

このチャンスを逃せば次はいつ開放されるか分ったものではないので逃げるように実家を出たのだった。

 1人愚痴りながら見慣れた道を歩き、至t山を目指していると声をかけられた。

 それは幼馴染とまではいかないが幼い頃よく遊んだ雄洵という男で、

久しぶりだと一緒に酒を飲んで雄洵の家に泊まることになった。



「・・・・???」

 バサバサ。そんな音がしているのに気づき発信源を見てみると、

幼子がさして多くはない翼宿の荷物をばらして遊んでいた。

「お前、何してんねんっ!!やめんかいっ」

 注意され手を止めた幼子は、自分の楽しみを邪魔されたとばかりに翼宿を睨む。

「・・・ええ度胸しとるやないか」

 大人気なく軽く睨み返す。

 が、幼子はもういい言わんばかりにくるりと背を向けると翼宿の使っていた寝台に慣れた様子でよじ登ると飛び降りた。

キャーキャーと喜び繰り返す。

「・・・・・・・・なんやねん、あいつ・・・ってなんで俺があいつの面倒みなあかんねんっ!」

 状況を思い出すべく記憶をたどる。

 確か雄洵とは家出をする前にあったきりで随分久しぶりで「今何しとんや」から始まり話も弾みそれと比例して酒も飲んだ。

 その途中に手持ちが少ないということを思い出し「ツケにしとくか」とつぶやいたとき雄洵は奢ってやると言い出した。

 その言葉に飛びつき奢りならと気持ちよく飲んだ。

 随分酔いが回った頃に、

「俺には娘がおんねんやけど、明日の朝どうしても抜けれん用事があって面倒見るやつがおらんけん困っとったんや。

面倒みてくれへんか?」

「昼前には戻ってくんやから、ええやろ?・・・・どうしても嫌っつーなら奢りっつーた話なかったことにするで!」

 酔いの回っていたのも手伝い何も考えずにふたつ返事を返した。




「・・・・・・娘って、こんなちびっこいんかい・・・」

 ため息をつきながら幼子を見てみると、また翼宿の荷物のところでコソコソと何かをしていた。

 そろそろと近づいてみるとぐしゃぐしゃと音がするのが聞こえまさかと目を開く。

「お前、これ!ねーちゃんが「攻児はんに(ハート)」ゆーて渡された手紙やないかっ!!!!」

 慌てて奪い取ると一部破かれたところがあった。

「ったく、油断も隙もないやっちゃなぁ」

 とはいえ、破かれた手紙のことは「ま、いっか」というレベルの問題だ。

 だがもちろん愛瞳に見つかればタダではすまないのだが。

 ぶつぶつと文句を言いながら荒らされた荷物を元に戻していると

トントンともドンドンとも聞こえる音に「迎えか!」と期待を抱き発信源を見る。

「・・・・・・・・って、お前か・・・」

 がっくりと肩を落とす。

「行こっ!行こっ!!」

 期待に満ちた目で戸を開こうと必死に手を伸ばしている幼子の姿だった。

「行くってどこに行くんや」

「行こっ行こうっ!!!!」

 言われるがまま何も考えずに戸を開くとやったー!!といいながら幼子は飛び出した。

「どこ行くんや!!」

 自分の家なのだから当然なのだが、慣れた様子で危なげなく走っていく。

「やった、やったやった!!!」

 何度も繰り返しながら外へ出て行く。

「おい、ちょっと待てや・・・」

 しかし待つ様子はまったくなく歳に似合わぬスピードで走っていく。

「そういや・・・」

 『あいつ、ちっこい体してめっちゃ足速いねん。そやから手ぇかかってしゃあないんや』

とかなんとか言っていたような気もする。

 単純に足の速さを競うなら当然翼宿が早いのだが、

相手は途中何度も止まり翼宿の手が抱き取ろうとするとそれをすり抜けるかのように走る。

 コンパスの短いその足は最高速になるのも早く、ハタから見ると翼宿で遊んでいるかのようにも見える。

 普段山の中で走っていることを考えれば大したことのない距離なのだが、

自分のペースで走れないというのはどうにもやりにくい。

 そもそも、走ることが目的ではない。

「おんどれ!ええ加減にせぇッ!!!」

「きゃぁあああ!!」

 どれだけ足が速かろうとやはり小さな子供。加速した翼宿にあっさりと捕まる。

 もぞもぞと翼宿から抜け出そうと体をよじらせる。

「・・・いや、いやあぁぁああ!!!!」

「・・・・何が嫌や、俺は誘拐犯ちゃうわっ!」

「いややぁあああ!!!」

 ぎゃーとも聞こえる幼子の声に周りの人がじろじろと見始める。

 顔を見合わせてぼそぼそと言い合い通り過ぎる人。

「・・・??・・・」

 その会話の中に「あんなに嫌がっとんのに」「誘拐か!?」という言葉もちらほら聞こえる。

「うわあああぁぁぁぁぁあああん〜〜〜〜〜」

 知らずに力が入っていたのか涙をぽろぽろ流して泣いている幼子に気づき思わず腕から力を抜く。

 スルリと器用に翼宿の腕の中から抜け出した幼子はにっこりと笑う。

「やったっ!」

「お前、さっきまで泣いとったんちゃうんか・・・」

 はぁと大きくため息をつく。

 とりあえず泣き止んだことにほっと息をつく暇もなく野次馬の中から1人飛び出してきた。

「お前、莉鈴ちゃんに何しとんねんっ!!!」

「どわっ!お前何すんねんッ!危ないやないかっ」

 頭上に降ってきたほうきを慌てて横に避ける。

 見ると自分より少し若い娘が片手にほうきを持って睨んで立っている。

「莉鈴ちゃん、大丈夫やったか?悪いやつは姉ちゃんがこらしめてやるけん安心しぃ!」

 ぎゅっと莉鈴をいとおしそうに抱きしめ、翼宿をキッと睨みつける。

「・・・かえすちゃん?」

「お前、こーんなかわいい莉鈴ちゃんに何しとんねんっ!」

「はぁ!?お前ちょっと待ちや!」

「問答無用やっ!!」

「俺は、雄洵に、頼まれ、て」

 ブンブンと向かってくるほうきを避けながら、今ある現状を伝える。

「預かっ、とんじゃあ」

 その言葉と共にほうきがぴたりと止まる。

「なんや・・・あんた、ゆんゆんの知り合いなんか!?」

「なんやその、ゆんゆんちゅーんは?雄洵のことか?」

「えーやろ、うちがあだ名つけたんや!」

「・・・パンダみたいやな・・・」





「そういやあ、今日は手が離せんけん、ゆんゆんに莉鈴ちゃんを任すとかよったなぁ〜」

 娘は華月といい雄洵の妻、莉鈴の母親の親友らしい。

 よくよく華月の顔を見れば、昔遊んだ顔ぶれの中にいたような気がする。

「ゆんゆんも仕事が入ったんかぁ。

母ちゃんからの頼まれごとがなかったら莉鈴ちゃんはうちがちゃーんと預かったんやけどなぁ。よりにもよって・・・」

「何や」

「姉ちゃんにいじめられていっつも泣いとった俊宇に預けたんかぁ」

「お前は一言多いんや」

「莉鈴ちゃん。なんかこの兄ちゃんにやられたら、うちに言うんやで!」

 華月が持っていた肉まんを頬張りながらうれしそうにうんうんとうなずく。

「こんなガキに何するちゅうんや。つーか、お前も頷くな!」

「何こんな小さい子に怒鳴ってんねん。短気っちゅうんは昔っから変わってへんなぁ」

 わざとらしくため息をついて首を横にふる。

「それはそうと。莉鈴ちゃんと別れるんはめっちゃ名残惜しいんやねんけど、そろそろ帰らなアカンねん」

「おうおう、とっとと帰れや」

「莉鈴ちゃん。この怖い顔の兄ちゃんになんかされたらうちに言うんやで!ちゃーーーんと姉ちゃんが利子つけてお返ししてやるけんな」

 莉鈴の視線の高さに腰を下ろし真剣なまなざしで華月は語りかける。

「誰もこんなガキになんもせえへんわ」

「そやったらええけど?」

「かえすちゃん、かえう?」

 それまで大人しかった莉鈴が口を開く。

 よく見ると華月に貰った肉まんを食べ終わったようだ。

「そうなんよ。姉ちゃんせなアカンことがあんねんよ。そやから、また時間のあるとき一緒に遊ぼうな」

 コクンとうなずく莉鈴にうっすら涙目になっていた華月は思わず抱きつく。

「莉鈴ちゃん、めっちゃかわいいぃぃぃぃぃ」

 そんな様子を見ていた翼宿は呆れ声を出した。

「・・・・・・・・お前、ガキ好かんかったんとちゃうんか・・・」

「莉鈴ちゃんはうちの太陽や。穢れた大人の闇を晴らしてくれる太陽なんや、うちには無くてはならん存在」

 手をグーにして語る華月。

「それよりもなによりも、莉鈴ちゃんはめっちゃかわいいねんっ!!」

 何故太陽なのか、そして何故突然抱きつくのかさっぱり理解できないが深く係わり合いになるまいとはいはいと聞き流す。

「莉鈴ちゃんにケガでもさせたら承知せんからな!」

 有無を言わさぬ迫力で迫られる。

「莉鈴ちゃんもめっちゃ心配やねんけど、アンタに1つ忠告しとくわ」

「忠告?」

 それまでとは違う真剣さに思わず聞き返す。

「そうや」

 すっ、と来た道とは反対方向の道を指差す。

「この先に莉鈴ちゃんがいっつも遊んどる広場があんねんけど、この道は行かんほうがええ」

「なんでや?そこって俺らも昔よう遊んどった場所とちゃうか?」

「そうやねんけど、この道は莉鈴ちゃんには鬼門や。うちもゆんゆんも莉鈴ちゃん連れて絶対にこの道は通らへん、危険や」

「危険て、ただの市やないか」

「どうしてもってなら止めはせんけど、やめといたほうがええで。忠告しとくわ」

「?????」

 頭に疑問を浮かべる翼宿からくるりと背を向け、

「莉鈴ちゃん。しばしのお別れや、またみんなで遊ぼうな」

「あそおーなー」

「それじゃあ、莉鈴ちゃん。バイバイ」

「ばいばい。またあしたー」

 そういい華月は包みを抱えなおし去っていった。

「なんやねん、あいつ・・・」

 嵐のように現れ嵐のように去っていった娘の背を呆然と見送った。









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うちの怪獣ネタですみません。

今は「手をつなごうね」といえば理解してくれますがほんの1.2ヶ月くらい前までこんなやつでした(汗)

恐ろしいヤツです・・・どんなヤツかは続きを。


元々このネタは怪獣を知っているオフ友と

「翼宿+井宿が怪獣の面倒見たらすごいことになりそう」で忘れかけていた頃に絵チャで書く気になったのです。

このお2人のおかげです。どうもです。

ついでに華月はこのオフ友がモデルです(笑)


とりあえずキリがいいのでここで1話終了です。次は井宿も出てくる予定です!

2007.08.06