シュンデレラ 3話    







 
シュンデレラ 3話









 やっと出会えた目的の人物の1人に連れてこられた場所と1番の目的の人物を前に翼宿はあんぐりと間抜けに口を開け立ち尽くした。

「どうしたの翼宿?」

「……えっと。鬼宿くん?そこで何をしてるのかなぁ?」

「何って、見れば分かるだろ。商売に決まってんだろ。新しい国王様の企画で今年はこの祭りでフリーマーケットやってんだよ!」

 活き活きと水を得た魚のように語る鬼宿の言葉は翼宿の耳には届いていない。いや正確にいえば届いているのだが理解されずに素通りしている。

「ガラわりぃやつに商売の邪魔されねぇんだぜ!」

 一体今までどんな商売をしてきたのか。

 しかしそんなことは翼宿には関係ない。

 柳宿に押し付けられた家事をほったらかしにして(帰って怒られることは確実)

 魔法使いの魔法に途中まで連れられたが、そこからはダッシュ(走ることは大好きだがここまで走ってくるのは非常に疲れる)

 強いやつと戦うのは大好きである。

 家を出てからずっと楽しみにしていた。

 強いやつと戦うつもりでここまでやってきた。

 納得できるわけがない。

「おんどれ!こんなとこでなにしとんねんっ! 思わせぶりしよってからにっ!」

「……?お前何言ってんだよ?」

「とぼけんなや!」

 ガシッと胸倉を掴む。

「あ〜もしかして。翼宿のことだから、強い人が集まるイベントがあるとでも思ってたんじゃない?鬼宿、張り切って家を出たもんね」

 それまでもぐもぐと持ち帰ったお好み焼きを食べていた美朱がのんびりと発言する。

「………」

 そこで鬼宿も合点がいく。

「そんなイベントはないよ。新しい国王様争いごとが大嫌いらしいよ。あ、それでねすんごい美形なんだって!だから柳宿が女装コンテストで優勝して即位式にでるんだって」

「……どうしてくれるんや、お前が思わせぶりな態度をしたんが悪いんや!」

「お前が勝手に早とちりしたんだろ、商売の邪魔だからあっちいけよ」

 拳を握りしめ鬼宿に殴りかかろうとする。

 対して鬼宿もそんな翼宿を目の前に黙っていられるほど穏やかな性格ではない。

「なんだよ、やろってのか?」

「だめだよ、鬼宿。ここでケンカしたら商売できなくなっちゃうよ」

「翼宿もこれをあげるから…」

 そう美朱に言われまわりを見渡すと人が周りに集まってきている。こそこそと遠巻きに話をしている人もいる。

「チッ」

 美朱にお好み焼きを手渡されお腹が空いていたことを思い出す。

「あ。美朱、それ俺のお好み焼きじゃねぇか」

「いいじゃない。ここでケンカしたら商売できなくなっちゃうよ」

「しゃーないな。ここは美朱に免じて引いたるわ」

 そういい、翼宿はお好み焼き片手にその場を離れた。

 美朱に免じて引くとは言ったが、勝手な勘違いでケンカを吹っかけたのは翼宿なのだが。









「はぁ〜。なんや、気持ち治まらんわ」

 フリーマーケット会場から少し離れたところの木陰に座りお好焼きを食べていた。

 丁度うまい具合に女装コンテストが始まるというアナウンスが聞こえ、そちらのほうへと人が走って行きこのあたりにはほとんど人がいなくなる。

「ちょっと昼寝でもするか…」

 食べ終わったお好み焼きの折を近くに投げ捨てごろんとその場に転がる。

 考えるだけで思い出してしまいイライラしてしまうのだから逃げでもいいからここは寝るに限る。

 本当は一暴れでもしたいところなのだが丁度よくあいてがいそうにもない。

 目を瞑りうとうととし始めた頃、近くで人の声がした。

 耳を澄ませばガラの悪そうな男の声と声変わり前の少年か年若い女の声だ。

「…なんや?」

 「大人しくしろ」「こっちこい」等どう考えても見過ごせば目覚めの悪い会話に翼宿はにやりと笑う。

 意気込んで声のした場所へと行くとヤクザ風に男2人とここへ連れてきてもらった魔法使いと一緒にいた少年がいた。

「お前らここでなにしとんねん!」

「あなたはっ!!」

 気分は悪を懲らしめに来たヒーロー。というよりもおもしろいおもちゃを見つけた子供。

「なんなんだ、お前?」

「このガキの仲間か!?」

「そやったら、どうすんや!?」

 いいところを邪魔された男は張宿にナイフを突きつける。

「そいつを離さんかっ!」

「兄ちゃんが金目のモン置いてってくれるのか?」

「そいつを離せいうとるやろっ!!」

 言うや否や張宿にナイフを突きつけている男に向かって走る。

 得意の俊足で一気のすぐそばへ行きナイフを持っている手を掴み男のみぞおちへ一蹴り。

 すると苦しそうにお腹を押さえそのままその場へ倒れる。

「ンのやろ!!」

 仲間を倒された男は拳を固め翼宿に殴りにかかる。

 が、張宿1人だと軽く括っていたのか喧嘩慣れしていない2人なのだろう。あっさりと倒される。

「すごい……」

 その場の光景を見ていた張宿は感嘆の声を上げる。

「あーすっきりしたわー」

「ありがとうございます」

「別になんでもあらへんわ、こんなん…………そんなことよりお前、なんでこんなとこに1人でおるんや?」

 翼宿のそばまでワッと駆け寄り素直にお礼を言う張宿に心苦しかったのか頭をかきながら聞き返す。

「井宿さんが小用でお城の中へ行っているんです。僕はお城の中へ行くことは出来ないのでここで井宿さんを待っていたんです」

「そやかてお前みたいなガキがこんなとこで今みたいなやつらに狙われてしまうやないか、あいつも何考えとんや!」

 そうはいうものの丁度いい鬱憤晴らしをさせてもらったのだが。

「いえ、本当は入り口で待っていたんですけど……人が本当に多かったんで動いてきちゃったんです…」

 こういう少年にはにぎやかな場所など慣れていないのだろう。祭り好きな自分すら鬱陶しいと思ってしまうのだからなおさら。

「井宿さんは悪くな………って井宿さんっ!!」

 突然また頭上に重みが走り、2度目でこの状況ならまさかという言葉が頭をよぎった。

 重い体を動かして重みの正体を確認しればやはりと思う。

「お前、なんで俺の上に落ちてくるんやっ!!!!」

「張宿、大丈夫なのだ?」

「聞いとるんのか!!」

「はい大丈夫です……それより井宿さんアレは?」

「おい!!シカトすんなやっ!!」

「ちゃんと渡してきたのだ」

「話聞かんかいっ!!」

「よかったーありがとうございます」

「だ?キミいつからいたのだ?」

「さっきからおったやないかっ!!! お前ボケとのんかっ!!」

 はぁはぁと肩を揺らせながら怒鳴る翼宿に井宿はあっさりと「冗談なのだ」と言われ翼宿はがくりと肩を落とす。

「それにしても張宿今日のところはこの顔の怖いおにいちゃんが助けてくれたのだがこんなところにいたら危ないのだ」

「……すみません」

「ってお前ここであったこと知っとんのか!?」

「すぐ近くにいたわけではないのだが知っているのだ」

「もしかしてお師匠様に?」

「そうなのだ。アレはすぐに渡したのだが部屋を出てすぐ捕まってしまったのだ…」

 苦笑しながら張宿に申し訳なさそうに見る。

「そこで時間をくったのだからそのお陰といえばおかしいのだが、このことにもすぐ気がつくことが出来たのだ。もうすぐしたら手配しておいた警吏が来るのだ」

 ということは「そこはお前に任すけん、後のことは任せとき!」ということだったらしい。

「「井宿様っ!!」」

 数人の男の声が聞こえたと思ったら格好からするに先ほど言っていた警吏らしい。

 手際よく懲らしめた男たちを連れて行ったと思ったら1人の男がその場に残った。

「井宿様、女王様よりそちらの少年たちと一緒に即位式の後執務室へ来るようにと伝言を承っております」

「…わかったのだ」

「………僕も?」

「じ、じょおおおさまああぁぁぁぁ!!!!!????」

 今自分が耳にした聞きなれない言葉は首を傾げた少年は受け入れているようで、意外そうなのだがどこか平然としている。

 一見どこにでもいそうな魔法使いを名乗る青年は女王様とやらと知り合いなのだろうか?

「仕方ないのだ」

「どうして僕も呼ばれたんでしょうか?」

「なんで俺がそんなとこいかなあかんねん!」

 自分はそんなところに興味はないし呼ばれるようなこともしていない(はず)だ。

「多分さっきの男たちをやっつけたところを見ていたから」

「そやかてあんときはしゃあないやん!」

 女王と会うとならばなにを言われるか分ったものではない。

 ただでさえそういう人物にお知り合いにないたいとなんて思ったことはない。

「俺は絶対にいかんけんな!」

「そういうわけにはいかないのだ」

「お前、知り合いなんやろ?そやったらお前からなんとかいうたらええやないか」

「だからそれが困るのだ」

「用事があるとでもなんとでもいうたらええやないか」

「それが通じる人ではないし、相手は女王様なのだ」

「そおいうんが嫌やいうてんねん!!」

 これ以上問答すると逃げ出してしまいそうと感じた井宿は一息をついた後。

「なっ……なんやっ!!体が動かん」

「少しの間大人しくしててもらうのだ」

 抜け出そうと体にどういう原理なのかどんなに力を入れても抜け出せない。

「これなんや!?」

「だから、オイラ一応魔法使いなのだ」

「ぐぅ………」

 魔法使いというのには初めて出会った。

 なんでもありという印象は幼い頃絵本を見た頃からあったが、

「こういうことが出来るんやったら、はよゆえええぇぇぇぇ!!!」









 あれから何度も抵抗を試みるも無残な結果に終わった。

 即位式が終わったのだろう。しばらくすると井宿が何事かをつぶやいた後気がつけば見知らぬ場所だった。

 書類が置かれてやけに大きな机が1つにソファ。特に飾り気があるわけではないのだが素人目にも分る高級さ。これが言っていた女王の執務室なのだろう。

「よく来たな」

 そう言って後ろに向いていた椅子が動き出しそこに座っていた人物がゆっくりとこちらへ振り向く。

 このような非常識な訪れ方。

 そして何よりこの姿にこの格好。

「すっ、すなかけばばあああぁ!!!」

 妖怪、砂かけばばあに間違いない!

「だあれが、砂かけばばあじゃっ!!」

 突然目の前に現れたと思ったら持っていた杖で殴られる。

「翼宿、こちらが前々女王を勤めていた方太一君なのだ」

「こ、こいつがあぁ!!」

 とてもそうは思えない。

 なんせ砂かけばばあの格好は絵本で見た怪しげな”魔法使い”そのものである。

「こいつとはなんじゃ、こいつとはっ!」

 もう一度殴られる。

「そして、オイラの魔法の師匠でもあるのだ」

 この発言には大いに納得できた。

 そして井宿にやっかいな魔法=人の上に落ちてくる、嫌だという人を縛りつける。を教えたのだ。そうとう根性が曲がっているに違いない。

「なんじゃ?」

 考えがバレたのかすごい形相で睨まれ顔を引きつるのが分る。

 ………場数は踏んだ思とったけど、、、こいつは別もんじゃ…

「それはそうと、張宿。あれを無事ここまで持ってきたことに礼を言う、手間をかけたな」

「いえ、そんなことはありません。それに井宿さんが一緒だったから、僕1人では来れませんでしたから」

 トントンと控えめな音でノックしてなんとなく振り返るとやけに体格のいい男と女に疎いと認めている翼宿でも美人と思う女性が入ってきた。2人とも立派な衣装を着ていている。

「井宿、張宿。今日は本当にありがとう」

「あれは式に使うものだからな、本当に助かった」

「いえ、でも間に合って本当によかったです」

「あ、翼宿。この人たちは、太一君の孫にあたり今日王妃になられた少華様とオイラと張宿の塾仲間だった診宿で新国王なのだ」

 顔を見合わせ少し照れくさそうなでも幸せそうなカップル。

「え、えーと。おめでとさん」

「ありがとう」

「ところで翼宿。お前を呼んだのは他でもない」

 突然真剣な声で太一君に言われ思わず面食らう。

「お前、わし直属の用心棒にならぬか?」

「は?」

「張宿を助けた時の実力。なかなかのものだった」

「冗談やないわ!面倒な王宮に勤めるつもりはあらへんわ!」

 確かに用心棒ということは強いやつと戦えるチャンスがある。それでも王宮のような堅っくるしい環境で働きたくない。

「そうか、では少し考えておいてはくれぬか?」

 口調こそ丁寧だが、即位式の間に聞いた出会ってから見た人柄井宿の言葉を思い出し冗談ではないとこと更に思う。

『太一君は人使いがすごく荒いのだ。だから今日みたいな式典のある日など出来ることなら顔を合わせたくはないのだ』

 人使いが荒くこういう性格の人物はやはり関わらないほうが身のためなのだと思う。

 そう思うのだが、

 そう思うのだが、

 1週間後、彼は承諾した。

 女王に雇われた兵士たちに1週間追いかけられ、心身共に疲れ果てた夜眠りにつくと女王さまに襲われる夢を見た。

 1度や2度ならとんでもない夢を見たと思うのだが、1週間立て続けしかも昼寝やちょっとした仮眠に至るまで夢を見続けたのだった。

 承諾すると女王に言ったときの彼の顔は少しやつれていたとか。







 余談だが、生まれ持った美貌で女装コンテストで優勝した柳宿だがすっごい美形と言われた新国王を見ようと張り切っていた。が、

「確かにいい男ではあるけど、私の好みじゃないわ〜」

 とか言っていたが、新国王の補佐&護衛の星宿という男に一目ぼれしたという。












大変遅くなって申し訳ありません><

長編ではないとはいえ連載するなら責任持てよって感じですよね!!

はい分ってます……ですが実行できませんでした…(わかってねーよ、こいつ)

こんなにも遅くなったのに読んでいただいた方にはほんと感謝です><

いつもながら翼宿の関西弁はエセ関西弁です。難しいです><

私は関西に住んでいない上、関西よりな言葉を使っているもので私の言葉が元なもので…

それにしても太一君は動かして楽しいです。

ところで即位した国王、診宿だと思いました……?

2007.01.22