猫のようなキミと 4話








 
猫のようなキミと 4話












「よし。よし」

「莉鈴ちゃん。こうするよりこうしたほうがたまもうれしいのだ」

「う」

 引っかいたりすることはないが、

たまの眉間に少ししわが入っているのを見つけた井宿は莉鈴の撫で方を毛並みにそうように教える。

「いもちいぃ?(意味:気持ちいい?)」

「・・・・・・・・・」

「ねぇ!ねぇ!!」

 素直に撫で方を直した莉鈴はうれしそうに問いかけるが反応は返ってこない。

 猫だから、といえばそれは当然なのだがまだ小さなお子様にはそんなこと関係ない。

「きいおる?(意味:聞いとる?)」

 たまの顔を覗き込んだ莉鈴が小さく「あ」と声を出した。

「どうしたのだ?」

「ねんねしたー」

「本当なのだ。起こしたら可哀そうだから静かにしているのだ」

 口に人差し指を添えて小さく言うと莉鈴もコクンと大きくうなずいた。

「きっと莉鈴ちゃんの”よしよし”が気持ちよかったのだ」

「じょーう?(意味:上手)」

「上手なのだ」

「やったぁ!」

「ついでにお前も寝たらええんや」

 そうしてくれればどれだけ楽になることか。

 昼頃とは言っていたがいつ迎えに来るかも分らない親たちに舌打ちしながら莉鈴から顔を背ける。

 良くも悪くも手が離れている子供だ。

「それにしても普通これくらいの子は迷子になったら泣くのだ」

「ほんま、見つかったとたん「おった」や普通いわへんで!」

「そうなのだ・・・」

「ねうい?」

 大人たちの会話には参加できないが「寝る」ということだけ理解したらしい莉鈴はトコトコと翼宿に近づく。

「・・・なんや?」

「ねんねー。ねんねー」

 どうやら翼宿が眠いと解釈したらしい莉鈴は不思議そうに莉鈴を眺めていた翼宿の背を小さく叩き始める。

「・・・・ッ!!!!!」

 つまり、これは・・・

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜俺やのうて、おのれが寝るんじゃぁぁあああああ!!!!!!!」

 子供受けしない翼宿の顔に驚いた莉鈴は慌てて井宿の後ろに隠れる。

 そして、

「おわい、あお」

 と、ボソリと呟く。

「あ?」

「おわい、あお!」

 翼宿の顔を指差す。

 この行動に莉鈴の言葉の意味が今まで幾度となく自分に向けられた言葉だと気づく。

「翼宿、相手は・・・」

「・・・・・・怖い顔っつーんは」

「子供なのだ・・・」

「これのことかぁぁぁあああああああ!!!!!」

 誰もが認める”怖い顔”で莉鈴に迫る。

「ぎゃーーーーーーー!!!!!!」

 悲鳴は上げつつも、楽しそうに翼宿から逃げる莉鈴に一抹の不安を抱いた井宿だったが安堵の息を吐く。

「はぁ。これではどっちが子供か分らないのだ」

 目の前では莉鈴を捕まえた翼宿がぐるんぐるんと回して莉鈴がキャーキャー喜んでいる。

 折角眠ろうと思ったのに・・・という細い目をわずかに開いたたまだが諦めたのか再び目を瞑る。

「しかしこれはどう見ても翼宿が遊ばれているのだ」





「あーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

「かえすちゃんやっ!」

「あんた、莉鈴ちゃんに何しとんねんっ!」

 両手に荷物を抱えた華月がドスドスと音を立てて翼宿に向かってくる。

「いや・・・これは・・・」

 こいつは怒らせるとヤバイと長年母や姉たちから培った本能が反応する。

「莉鈴ちゃん、イジメとったんちゃうやろうなっ!!!」

「なんでこんなガキイジメなアカンねんっ!」

「こんなガキやない!!『り・り・んちゃ・んっ!』」

「そんなん、わかっとるわっ!っーか、なんでここにおんねん!!!」

「かえすちゃん!かえすちゃん!!!」

 翼宿の手から開放された莉鈴は華月に飛びかかるように抱きつく。

「きゃー!!!!莉鈴ちゃんっ!!!!」

 幸せいっぱいの笑顔を浮かべ莉鈴を抱きとめる。

「知り合いなのだ?」

「こいつのオカンのダチや!」

「・・・そうではなく翼宿の知り合いではないのだ?」

 またやっかいなやつが現れたとでも言わんばかりの不機嫌な翼宿に、

翼宿の昔の知り合いではと推測した井宿が聞いてみる。

「ガキん時、何回か遊んだ中におったうちの1人や」

「なんや、その言い方は!?お姉さんに「女には優しくせなアカン」って教えてもらってへんのか!?」

「そういう言い方が、おのれは姉ちゃんらにそっくりや・・・」

「そりゃあ、あんたのお母様を始め、苑明さん吝安さん芙陽さん万香さん愛瞳さんみんなすばらしい方や!

ああいう風に女も立派に生きなアカン!!」

「あれらを尊敬すなや!!っつーかなんでお前が姉ちゃんら知っとんねん!!」

「昔、兄ちゃんと付き会っとってん」

「は?」

「そやから、うちの兄ちゃんが昔苑明さんと付き合っとってん。

そやけど2人ともリーダータイプでうまくいかんかったらしい。今は気の合う女友達や、兄ちゃん言うてたで!」

「・・・・はぁ。そうかぁ」

 華月の語りに呆れたのか、実は姉と華月の兄がそういう仲だったという事実に少なからずショックを受けたのか、

とりあえずこれ以上華月と言い合うのは諦める。

「・・・・って!ちょーまてやッ!! このこと、姉ちゃんらには内緒やで!!!」

「アンタが莉鈴ちゃんの面倒見たことが内緒にせなアカンことなんか!?」

 そこまで言われてハッとなる。

 莉鈴が行方不明になった時間のイメージが強くて忘れていたが華月と出会ったのは行方不明の前だ。

 不思議そうに、いや。怪しんで見る華月の視線が居心地悪くて思わず目を逸らす。

「・・・まさか、莉鈴ちゃんから目ぇ離して、見失った・・・とかやないやろうなぁ」

「そ、そんなわけないやないか・・・なぁ井宿?」

「子供同士仲良く遊んでいたのをオイラ、見ていたのだ」

「なっ!!そやろう」

「ふーん、ならええわ」

「って、待てや井宿!!!さっきのどういう意味やっ!?」

「どういうって、そのまんまの意味なのだ。オイラ、ハタから見ていてどっちが子供か見分けがつかなかったのだ」

「俺のどこが子供や!!」

「そういうすぐにムキになるところなのだ」

 もう一言二言言い返してやろうと思ったが、もし見失ったことを華月、そして母親や姉たちにバラされてはたまらないと口を閉じる。

「あんたら、おもしろいなぁ。漫才コンビでいけるんとちゃうか!?」

「オイラたち、1度旅芸人の手伝いをしたことがあるのだ」

「へぇ!漫才やったんか!?」

「ヒミツなのだ」

 クスクスと笑う井宿の笑顔にこれは答えてくれないのだろうと思い諦めの息を吐く。

「それはそうと、莉鈴ちゃん。お母ちゃんさっき買い物しょったで!」

「かいもんっ!?」

 その言葉に華月の腕の中の莉鈴は目を輝かす。

「おいしーもん、あぅ?」

「今日の晩御飯買いよったみたいや」

「やった。やったー」

 華月の腕からするりと降りた莉鈴はもと来た道、つまり市のほうへと走っていく。

「・・・・・・反応すんは、オカンよりも食いモンか・・・」

 さすがの翼宿も呆れ顔でつぶやいた。

「それよりも、早く追いかけないとまた迷子になってしまうのだ」

 そう井宿が翼宿を促すと華月の眉間がぴきりと動く。

「・・・また。って何や!?」

「井宿、おんどれっ!!!」

 ハッと思い振り返るとどす黒いオーラを撒き散らす華月がいた。

「莉鈴ちゃん迷子にさしたんかっ!!!」

「ちゃ、ちゃうて!!!・・・・・・ちょーっとおらんようになったおもたら、こいつの猫と遊んどっただけや」

 華月が1歩進むと翼宿は2歩後づさる。

 助け舟を求めようと井宿を見るが、眠っているたまを懐にいれ莉鈴を追いかけようとしていた。

「翼宿、何をしているのだ!早くしないと本当に迷子になってしまうのだ。キミが頼まれた子なのだろう?」

「わーっとるわ!・・・・つーことで!」

 じゃあ!とばかりに片手をあげ走り出そうとしたとき華月の手が伸び翼宿の肩を掴んだ。

 そろりと振り返ると意地悪い笑みをたたえた華月だった。

「まあええわ。はよ、莉鈴ちゃん追いかけ!うちは用事があるさかい。

・・・そやけどこのことはお母様やお姉さま方に報告しとくわ。覚悟しときや」

「な、なんやて!!!」

「翼宿、何をしているのだ!!」

「お、おう!」

 クスクスと黒い笑いを背で聞きながらその場を離れた翼宿は将来の自分の身を案じ、

しばらくは実家に帰らないと決意した。










「本当に、お世話になりました」

 そういい頭を下げているのは莉鈴の母親と名乗る女性。

 莉鈴を見つけるのは意外にも簡単だった。

 市の入り口で華月と同じ年頃の女性に抱っこされていたのだ。

 初めは本当に母親か!?と考えたがこの女性には莉鈴の面影を感じ、

井宿に気の種類が同じだから血縁者なのだといったので母親であると確認した。

「莉鈴もお礼をいわな」

「・・・あいあとう」

「おう!この幻狼様にとったらこんなガキの1日や2日面倒みるんは朝飯前やっ!」

「えっ!?また頼んでえん?」

 大人しそうな母親に思わぬ言葉を言われ言葉に詰まる。

「え”っ・・・」

「冗談ですよ」

 クスクスと笑う母親を見て、この女性が華月の親友であると思い出す。

「ばいばい」

 莉鈴の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でると嫌そうに手で振り払われる。

「おう!またな・・・今度はもうちょっと大きいなったら遊んだってもええで!」

「莉鈴ちゃん、ばいばい」

「またあしたー あすき、いいいぃ〜」

 遠く離れていく莉鈴の背を見送りながら、肩の荷が下りたと息を吐く。

「っーか、あすきって俺のことか!?」

「多分そうなのだ」

「お前なんか一文字もあってへんで」

「まだ小さいから仕方ないのだ」

 莉鈴の面倒を見る親は大変だろうな、と頭の隅で思ったとき莉鈴の声が聞こえた。

「いやぁ、いるうぅぅぅぅ!!!!」

 どうやらまた食べ物屋の前で立ち止まり何かをねだっているようだ。

「アカンいうてるやろ!!!」

「いやあぁ、あべうぅ・・・」

 母親が莉鈴の手を引き連れて行こうとするがずるずると引きづられるばかりで莉鈴には動く気配がない。

 どうするつもりなのだろう。と見ていると突然母親の手が莉鈴から離れた。

「じゃあええよ!お昼ごはんの後に莉鈴と半分こして食べよう思とったお饅頭、1人で食べよう!」

 莉鈴の動きは早い。

「いる!!」

「どうしようかなぁ〜」

 すたすたとその場を離れる母親を追って走る。

「「・・・・・・・・・・・」」

 さすがに翼宿も井宿も呆れて何もいえない。

「お店のもんは持ったらアカン、お母ちゃんいるもんはこうたるけんな!これお約束な!」

 コクリと動くのが見える。

「じゃ、帰ってご飯食べよう」

「はんぶんこー♪はんぶんこー♪はんぶんこー♪・・・」

 莉鈴の歌声が遠くなっていくのを聞きながら独り言のようにつぶやく。

「オカンはオカンやなぁ」

「莉鈴ちゃんに、慣れているのだ」

 あっさりとわがままをいう莉鈴を手懐けた母親にいろいろと突っ込みはあるものの、

苦笑しながらそういうしか2人にできなかった。















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猫のようなキミと、最終話です。

こんなやつなんです、うちの怪獣は。実話も結構あります(笑)

でも、最終話あたりは最初書き始めたころのモデルの年齢(書き始めの年齢)と今の怪獣の年齢が違うため、

あり?とか思いながら書いてました。



そしてそしてT様、すみません><

私が言い始めたことなのにこんな遅くになって・・・・(絵チャログの日付みて涙出そうになりました)

2007.11.19