Happy Valentine’s Day!!







 
Happy Valentine’s Day!!








「あーーー井宿、いたいた!!」

「美朱ちゃん。どうしたのだ?そんなに慌てて?」

 少し乱れた息を整えると美朱は手に持っていた袋から小さな包みを取り出し井宿に手渡した。

「はい、これ。今日バレンタインだから」

「ば・・・ばれっ??」

「えへへ。私の世界のイベントなんだ。

今日はね、女の子から大好きな男の子にチョコをあげる日なんだよ。井宿にはいつも迷惑かけてる」

「これ、もしかして、美朱ちゃんが・・・??」

 恐る恐る聞いてみるが、返される言葉は否定することはないだろう。

「うん、私が作ったの」

「・・・・・・・・」

「あんまりチョコ持っていなかったから、ちょっとしかないけど」

「あ、ありがとうなのだ・・・」

 以前美朱の作った料理を食べた時のことを思い出し呆然と手渡されたチョコを見る。

「私こそ、いつもありがとうね。井宿!」

 美朱の手の袋から見える貰ったものと同じだと思われる包み紙を見て、何事も起こらなければいいのだが。とちらりと思う。

「井宿・・・あのね・・・」







※ ※ ※






 紅南国宮殿の一室の前で1人の少年がいた。

 扉に手をかけ声をかけようと口を開くが、そのまま声にならずに口を閉じる。

 しかしノックをするかのように扉の前まで拳を持っていくが、やはりそのまま手を下ろす。

「美朱・・・」

 俯いたまま小さくつぶやく。

 彼、鬼宿は悩んでいた。

「なんで・・・・・・」

 昼前、星宿様は美朱から「ちょこ」と呼ばれる美朱の世界のお菓子を貰ったという。

 聞けばそれは、美朱の世界のイベントで今日は女の子が好きな男にチョコをあげるという日らしい。

「俺には、ないのか・・・」

 チョコを貰うどころか美朱の顔を朝食時に1度みたきりだ。

 美朱の世界のお菓子には興味はある。

 だが、しかし空が薄暗くなったこの時間になっても何も貰っていない。

 それどころか、自分のことが愛しているのなのなら1番に渡してもいいはずだと思う。

 なのに、何故。

 もし否定されたら。

 もし自分よりも星宿のほうが好きだと答えたら。

 そう思うと、心が重くなるのだった。

「た、鬼宿・・・」

「美朱」

「鬼宿、あのね・・・私っ・・・・・・」

 そう言ったきり口を噤んでしまった。

「美朱・・・」

 目を逸らしぎゅっと服を握り締めている美朱を見てもしかして、本当に。と思い始める。

「ごめんなさいっ!!!!」

 それを肯定するかのように謝罪の言葉が述べられる

「私・・・私・・・・・・」

 ぎゅっと目を閉じた美朱の肩に震える手でそっとおく。

「美朱・・・おっ俺より、星宿様を愛しているのか」

 聞きたくはないが、聞かなければいけない。

「えっ!?・・・なんで私が星宿を???」

 帰ってきたのは肯定も謝罪でもない否定の言葉、しかも見ると美朱自身きょとんとしている。

「・・・星宿様に「ちょこ」ってやつあげたって・・・あれって好きな男にあげるって聞いた・・・」

 目を丸くしていた美朱だったが合点がいったかとでもいうかのように手をポンと叩いた。

 そこで義理チョコと本命チョコの違いを聞き、思わずその場に座り込んでしまった。

「なんだよ〜」

「私は鬼宿一筋だよ。ちゃんと鬼宿のチョコも用意してるよ、はいっ!」

 渡されたのは可愛くラッピングされた小さな箱。

「私が作ったんだよ!」

 箱は違うんだけどねと続ける。

「ありがとうな、美朱!!」

「えへへ。どういたしまして」

 わずかに頬を染めてにこりと笑う。

「でもよう、なんで謝るんだ?」

 もっともな疑問だ。そのため自分は多いに勘違いして一瞬だが絶望してしまったのだから。

 そう言われてわずかに視線を泳がせた美朱が意を決したようにこちらを見た。 「昨日ね、鬼宿に綺麗な石くれたでしょ」

 確かに昨日出稼ぎの帰り道川辺でトパーズに似た薄い黄色の石を見つけ美朱に渡した。

「その石ね・・・ごめんなさい、なくしっちゃったの」

 ずっと探してたんだけど見つからないの。そう続けられた言葉を聞いて納得した。

 今日一日会えなかったのは自分の渡した石、しかもそのあたりに落ちている石よりはずっと綺麗という程度の石を探していたのだ。

 大切にしてくれていた。

 軽い気持ちで渡したその石がどれほど喜んでくれていたかを知り胸がいっぱいになる。

「美朱、ありがとうな。俺も一緒に探すよ!」

「うん、鬼宿!」






 美朱に聞くと、今朝まではあったという。

 つまり今日の行動をたどれば見つかるはずだ。

「今日は、朝起きてすぐ厨房に行ったの」

 「厨房」という言葉を聞き若干冷や汗をかいたがその言葉は後でよく吟味するとして。

「その後、ちょっと服汚しちゃったから着替えたんだけどね、そのときに気づいたの」

 制服といういつもとは違う服を着ているのには気づいていたが、そういうことだったのかと思う。

「つまり、美朱の部屋か厨房か服にあるってことだよな」

「でもね。私の部屋も厨房も服もずっと探してたんだけど見つからないの」

 自分の手に持つ「ちょこ」というものを見てまさかと思う。

「一応聞くけどよ、厨房で何してたんだ?」

「みんなにあげるバレンタインチョコを作ってたの!」

「それだっ!」

「そっかぁ。みんなのチョコの中に入っちゃったかもしれないんだ!」






 そうと決まれば早いもので、宮殿にいた七星士たちを集めた。

 さすがに政務で忙しい星宿以外が集まった。

「ってことは、このチョコの中に入っているかもしれないってこと?」

「うん・・・ごめんね、みんな」

 さすがの美朱もばつが悪いらしく「なんで誰も食べてないの?」というもっともな疑問は浮かんできていないらしい。

「この場でみんな食べてみるといいのだ?」

 「手作り」と言う言葉を知っている井宿は若干引きつっている。よく見ると他の面々も知っているようだ。

 そもそもチョコというのはどういう食べ物なのかは知らないが、美朱の手作りということは悪いがあまり期待できない。

 むしろ危険なにおいがする。

 箱を開けるとこげているのか!?と思えるような怪しい黒に近い茶色の物体。

 これがお菓子!?とは思うものの☆型?や丸型?などかわいらしい形になっているが手作りたる所以だろう。

 美朱の世界とは違い型がなかったらしく、形がかなりいびつになっている。

「・・・食べなアカンのか・・・」

 しかも今、この場で。

 美朱に聞こえない程度につぶやく翼宿の顔にしっかりと「なんでこんなん食べなアカンねん」と書いている。

 張宿も未知の食べ物に興味がある反面、過去に食べた美朱の料理を思い出し恐々とチョコを見ている。

 その横で軫宿は残りの胃薬の残量を思い浮かべ、渋い顔をする。

「さぁ、みんな食べましょうよ」

 そう言う柳宿自身顔色はよくない。

 だがしかし前へ進まないことには何も始まらない。

「では、食べるのだ」

「そうですね」

 柳宿の言葉に意を決し、いただきますとそれぞれ口に運ぶ。

「あら?」

「おっ!」

「だ!」

「美朱さん、おいしいです!」

 それぞれ、さも意外とばかりに目を丸くする。

「きゃー!よかったあぁ」

 手を叩いて喜ぶ美朱の横で鬼宿が信じれないような顔で仲間を見る。

「なんや甘いし見た目はグロテスクやけど、いけるで!」

「グロテスクって何よ!」

 そんなことないよ!と頬を膨らませるが顔はご満悦だ。

「おいしいわよ、美朱」

「ありがとう」

 この間食べた美朱の料理だけがダメだったのかと思い始める。

「この前のはちょっと失敗しちゃったけど、よかった」

 ちょっとじゃないだろ、と誰もが突っ込むが誰も口にはしない。

「でも、でてこなかったわね・・・」

「うん・・・星宿のチョコに入っちゃったのかな・・・」

「ちゃんと探したの?」

「うん。でもまた探して見る・・・」

 シュンとなってしまった美朱を見て言うべきか悩んでいた言葉を出す。

「俺まだ喰ってねぇんだ」

 みんなの意見も聞いたことだし、きっと大丈夫だろう。

「あんたまだ食べてなかったの」

「食べてみて!」

 綺麗に包装された包み紙をのけて箱をあけると明らかに仲間たちとは違うチョコを見て一瞬焦る。

 それでも期待に満ち溢れた美朱の顔を見て生唾を飲んで意を決して口に含む。

 がりっ。

 なにやら食べ物とは思えない硬い物体があって口から出す。

「あったあぁぁぁぁ!!!!」

 よかったと幸せそうなに笑う美朱の横で紫色の顔の鬼宿がいた。

「うぐっ!!!!!!!!!!!!!!」









 余談だが、鬼宿に渡したチョコは手作りのトリュフで七星士たちに渡したチョコは溶かして型にいれただけのものだったのだ。

 そして鬼宿は腹痛に3日間寝込んだという。








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いつものごとく14日を過ぎていますが、14日と言い張ります。

そして時間軸はノー突っ込みでお願いします。ぷちパラレルってことで。

2008.02.14