流浪の旅人        








流浪の旅人














「あんたって、1人でいたの長いんでしょ」

 言われたときどういう意味なのか分らなかった。

 実際には長いのだと思う。

 天災で家族や親友、恋人を失って以来自暴自棄に流れた3年間。

 七星士としての力を身につけるために訪れた大極山での3年間。

 どちらも特に親しい人を作ることはなかった。

「どうしてそう思うのだ?」

「なんとなくね」

 意味ありげにこちらを見る。

「確かに1人でいる時間は長かったのだが」

「そうじゃなく」

 柳宿の視線の先は、星宿様に借りた北甲国に関する書物。

「1人で背負いこんでるんでしょ、あんた」

「………」

「美朱たちに聞いたのよ。倶東国に美朱やたまちゃんを迎えに行った時、単独行動してたんでしょ」

 自分が七星士と名乗りだしてすぐ美朱は1人倶東国に向かった。すぐにそれを追いかけた鬼宿。そして美朱の後をこっそりとつけていった自分。

 美朱や鬼宿を影で見守りつつも手を出さずに、本当に危険と感じた時にだけ手を出した。

 鬼宿を倶東国に迎えに行ったとき。捕まった美朱、真正面から助けに行こうとする翼宿を無理やり制して1人で美朱を捜しに行った。

 それらはすべて、よく言えば他人と距離を持って行動する、悪く言えば単独行動。

「確かに鬼宿も翼宿も見ていて危なっかしいわ。考えなしに行動して自爆しそうなんだから見守りたいのは分るわ」

 でも。と付け加える。

「一緒に捜しに行ってもよかったんじゃない?」

 おとり作戦といえば聞こえはいいかもしれない。

 でも今までの、例えば敵国の将軍で青龍七星士の心宿と対峙したときの実力。そして皇帝である星宿に代わり債務を勤められるほどの知識と知能。

 七星士の力といえど、努力なしでは身につけられるものではない。

 彼はずっと1人で旅をしていた。

 周りには誰も居ず、自分で考え自分で行動をする。

 すべては自分の責任で。

「七星士はあんた1人じゃないのよ」

 その分勝手に行動する相手のフォローをすることもあるが、接近戦の得意な鬼宿に翼宿に苦手な自分。

 個々の能力が違えば必然的に出来ることも違ってくる。

「あんた1人で抱え込まなくてもいいのよ。1人じゃないんだからみんなですればいいのよ!」

 仲間がいるんだから。

 1人じゃないんだから。

 バシバシと背中を叩かれ痛む背中をさすりながら不思議な面持ちで柳宿を見る。

「なんて顔してんのよ!もっと私たちを頼りなさい!」

 歳からすれば随分自分のほうが上なはずなのに、まるでお兄さんとでも話しているような錯覚に落ちる。

 そういえば、長男で下の兄妹しかいなかった自分には新鮮な感覚。

 たまには甘えてもいいのかもしれない。

 肩の荷持つをほんの少しおろしてもいいのかもしれない。

「わかったのだ」

 これから新たな旅立ちとなる。

 敵の術者は1人ではない。

 自分1人で対抗できるはずもないんだから。

 遠く紅南の地でいる星宿も戦っているんだから。

「絶対にみんなで帰ってきましょうね」

「ああ」









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いつもに比べたら短い話になりましたが、随分前にいきずまって書きさしで置いておいたものを修正。

暗い過去を持つ井宿からすれば人とのかかわりを持つということは不思議な体験が多いような気がします。

こういうことを井宿に言える人って診宿か柳宿でしょうね。でもこのころの井宿って他の人とかかわりがないから難しい><

そりゃあ、柳宿に言われるわ…(笑)


2007.03.26