厚い雲に姿を隠していた星たちも今日は「私はここよ」と自己主張するかのように輝いている。
そんな星たちの合間を脱ぐように空を漂う風船のようにふわりふわりと移動する影があった。
「にゃん」
「遅くなったね」
「太一君怒ってるね」
「怒ってるね」
10歳ほどの幼子が2人宙を舞うように空を飛んでいた。
「でもいつものことね」
「いつものことね」
「怖くないね」
「大丈夫ね」
その言葉通り焦る様子はまったくなく右へ左へ時には一回転、夜空の散歩を楽しんでいた。
「にゃん!」
「どうしたね?」
1人の幼子が星、正しくは星座を指さした。
「おかしいね」
「本当ね、大変ね!」
「危ないね」
「キケンね」
それは幼子たちにしか見えない星の陰りであった。
「このあたりね」
「ここの近くね」
幼子たちは連日の大雨で増水した川の上に一瞬のうちに移動した。
先ほどの暢気な姿とは一変し水面へ意識を集中させる。
「あそこね!」
指し示した先には増水し牙を剥いた川に流されたのであろう、人が川岸に上半身だけ打ち上げらたように横たわっている。
幼子たちが何事かつぶやくと幼子と人は川から少し離れた高台の安全な所へ移動した。
「大丈夫ね?」
それぞれに小首を傾げ尋ねるが返事はない。
人はまだ少年の面影を残す青年で、流木や土砂の混じる川に流されたにしては奇跡的なほどに軽傷だ。
ところどころ擦り傷はあるものの完治しつつある左目の大きな傷以外は目立った怪我はない。
幼子の1人がうつぶせになっていた青年を無理矢理仰向けに直すと、もう1人が思いっきり青年の上に飛び乗った。
「いっぱい水飲んでたね」
「やっぱりね!」
かなり乱暴に水を吐き出さされたというのにうめき声すら上げず青年は眠り続ける。
けれど呼吸はしっかりしていて、幼子たちは少し安堵の顔を見せる。
そして幼子の持つ能力(ちから)で青年の体と服を乾かせ完治していない左目に包帯を巻く。
体の不快はなくなったというのに懇々と眠り続ける青年を見て幼子たちの眉がだんだんとハの字に変わっていく。
1つの小さな手が青年の頭に伸びる。よしよしとまるで小さな子供にするように頭をなでる。
もう1つの小さな手は胸をトントンと優しくたたいた。
「大丈夫ね」
青年が自ら川へと身を投じたのが分かっているかのように、幼子は語りかける。
「大丈夫ね」
「怖くないね」
いや”人”ではない幼子たちには分かるのだ。この青年が背負っている物を。
そして青年がこれから何を背負うのかも。
背負っている物もこれから背負う物も決して軽い物ではないことも知っている。
陰りを帯びた星。それは青年の宿命の星。
「怖くないね」
だから安心していいね。泣きじゃくる子供を宥めるように何度も何度も幼子たちは繰り返した。
するときつく閉じていた口が僅かに緩んだ。